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森のフォーラム

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Re:短編小説
虎縞
[ID:tigerhalfowl]
「海って私、行った事が無いんです。お父さん、連れて行ってくれるって毎年言ってたのに、結局……」
「なら行こうか、今度」
「え?」
「来週から夏休みだ」
 貴方はこの間、黄色い薔薇をくれた。良い意味で、と。黄色い薔薇の花言葉は、“あなたを恋します”。私もですと返した時から、肝心な言葉を出すのは恥ずかしがる、私達の関係が、進み始めた。
 パスポートは持っていて、それならと貴方は直ぐに列車とホテルの手配を済ませた。学者さんて、旅行が多いのね。貴方があんまりに迷い無く済ませて来たから、うっかりすれば頼りなさそうな程細身の貴方がすごく、すごく。それから私の旅行鞄と服をたくさん、貴方は買ってくれました。大きな白い帽子は、夏の匂いがする。
 暑い街を抜け出して、列車は海へと。幾日も掛けて。
 寝台車の客室に掛けられた絵の話をしたわ。貴方は絵に詳しくて、私はそれがすごく嬉しかった。あんなに海に連れて行ってくれるって言ってたお父さんだって、こんなに絵の話は出来なかったでしょう。食堂車に生けられた花の花言葉を、貴方は何でも知っていたわ。私に花言葉を教えてくれたお母さんだって、こんなに花の事は知らなかったでしょう。
 大きな白い帽子を被って辿り着いた海は、どんな絵より、どんな彫刻より完全で美しかった。音が聞こえる。あんなに近いのに、遠鳴りのような海の声。
 この景色を、この音を、お父さんとお母さんは見た事が聞いた事があるのかしら。
 何の言葉も出なくて、たくさんの事を思って、思い出して、ただ打たれて、涙が出て来て、止まらなくなっていると、貴方が初めて、手を握ってくれた。貴方は黙ったままで、何の慰めも口にはしなかったけれど、それが優しかった。慰めは、私の想いをかき乱すだけだもの。
 明くる朝、海沿いを散策すると朝顔が咲いていた。
「朝顔のようだとは、言わないでくれ」
 朝顔の花言葉は、“儚い恋”。
「……貴方に今度あげるのは、黄色いヒヤシンスですよ」
「……黄色のヒヤシンス、か」
 ねぇ貴方、また手を握って。貴方の手は優しくて、でも私の方から握るのは恥ずかしくて。
 黄色いヒヤシンスの花言葉は、“あなたとなら幸せ”。ねぇ貴方、やっぱり言葉にするのは恥ずかしいけれど、貴方となら幸せ。
 きっと暑い街に帰っても。


前回投稿の二人、恋人未満?の頃の話でした。二人には花言葉で奥ゆかしく恋を伝えていて欲しいです。

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