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森のフォーラム

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Re:短編小説
きみ
[ID:boopc410]
突然の出来事に、声も出なかった。
間隔が空いたあと、一度鋭く息を吸う音が聞こえた。それが自分の行為だと気づくのに少し時間がかかってしまった。
無意識に自ら息を止めていたようだ。彼女は恐る恐る呼吸を再開する。
壁に寄りかかっているのに、足が震えて上手く体を支え切れていない。少しでも力を抜くと簡単に足元から崩れ落ちてしまいそうだ。
それでも気丈に踏ん張っているのは、彼が目の前で行く手を阻んでいるからだ。情けない姿は見せまいと必死に力を込める。
後ろは壁、前には彼。顔の両隣には彼の腕が伸びている。
退路を完全に断たれた。逃げ道をなくし視線の置き場にも困って俯きかけると、彼が口を開いた。

「……オレ言ったよね、オレ以外の男が何か言い寄ってきても口利くなって」

静かな口調がさらに恐怖を煽る。怒っているのは明らかだ。
しかし彼がこれほど怒る理由を彼女は理解できない。彼女は必死に弁解を試みた。

「で、でもあの人はただ道を聞いてきただけでした。困っている人がいるのに無視なんて――」

心なしか彼女は、足だけでなく声も震えている。
よほど自分が恐いのか。自分はそれ程彼女に恐怖を与えているのか、……いや、意識されているのか。
たとえ恐怖という言葉であったとしても、彼は彼女が自分の存在をその全身で感じていることを、ひどく心地好く思った。込み上げる笑いをなんとか抑え、無表情を作る。
そして彼女の言葉を遮り、彼は一気にまくし立てた。

「ホントにそう思ってるのなら、君は世間知らずのお馬鹿さんだよ。人を見る目がない。裏を読めない短絡的な考えしかできない、そんな君が世の中でやっていけるわけがないよ」

そうだろ、と彼は視線で彼女を捕らえ続ける。高圧的で独善的な言動だった。
その時、畏縮していた彼女が変化を見せた。
恐怖は拭い切れていないものの、はっきりと意思を持った目を彼に向けた。

「……そんなに全てを疑ってたら、なにも信じられなくなっちゃいますよ。私は……嫌です、そんなこと」

彼女から反抗の兆しが見られ、今度こそ彼ははっきりと笑った。そのとても楽しそうな笑みに、彼女は背筋が凍るような思いだった。
それはまるで純粋な少年のように綺麗だったからだ。

「……そう。君はそうやって、あくまでもオレに反抗するんだね」

笑ったのはほんの一瞬で、彼は静かに呟くと、彼女の両側を塞いでいた自らの両腕をゆっくりと降ろした。あまりにも抑揚なく放たれた言葉だった。
彼の意外な行動に一瞬疑問を感じたが、とりあえず解放されたことにそっと胸を撫で下ろす。
張り詰めていた空気が和らぎ、気まずさが残る。彼女がその間を払拭するように彼に声をかけようとすると、彼が不意に彼女の方へ手を伸ばした。
びくりと肩を揺らした彼女に、彼はもう一度笑ってみせた。彼の手が彼女の頬へとたどり着く。
そして彼女は、呆気なく彼をその唇に受け入れてしまった。
またそれも瞬きの間に済んでしまい、彼女は口を挟む暇も与えられなかったのだ。
彼女が発しようとした声が彼女の喉から出ることはなかった。。
そこに先程の束縛はない。だが彼女は完全に四肢を動かせなくなってしまった。
その様子を見て彼の口元が楽しげに動く。それは五文字の言葉を表していた。
その意味を理解した途端に、最早彼からは逃げられないと悟り、彼女は終に口角を上げた。

彼も彼女も、自らに侵食してくる互いを、恐ろしくも愛してしまったのだった。

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