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Re:短編小説
烏竜
[ID:696966100]
誇りより大事なものが無かったのか。
そう問いたかった。
何度目か分からない春が来る。
今日も多くの花びらが宙を舞い、多くの人々が木を見上げる。
君の誕生とともにこの庭に植わった木が、もう30歳になる。
君と共に見続けたかったこの木が、もう30歳になる。
分かってはいた。
君はいつでも誇りを持っていて、それが一番なんだという事ぐらい。
分かっていたはずなのに。
僕はいつまでもこうやってこの木を眺めているんだ。
馬鹿みたいに。
それはやっぱりきっと分かっていなかったから。
「…また見てたの?」
19も離れた弟が、僕にそう問うた。
「うん。綺麗だろう。」
まるで姉みたいに。
世界中で一番綺麗な桜の木だろう。
「……母さんがご飯だよってさ。」
「すぐ行くって言っといて。」
すぐ行く気なんか無いくせに。
もう30分は動く気なんか無いくせに。
「…早くね。」
それでも行ってくれる弟は、優しいと思う。
とても優しかった姉に似て。
ねぇ姉さん。
僕は姉さんが大好きだったよ。
この世界の何よりも。
なんで僕を置いて行ってしまったの。
なんで他の人の為に行ってしまったの。
僕はそんな奴より姉さんにここに居てほしかったのに。
本当に誇りより大事なものなんて無かったの?
絶対に無かったの?
僕は誇りに劣っていたの?
ねぇ姉さん。
優しく美しく、誰よりも美しかった姉さん。
誰よりも大好きだった姉さん、答えてよ。
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誇りも大事だけど残された人の身にもなれよ馬鹿野郎って感じの話です。
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