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□『shungyou』
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これの続き...




「着いたよ、ハルカ」



返事はなし。
静けさの充満した玄関、息を殺せば聞こえるのは規則正しい吐息。起こさないようにと慎重に靴を脱がしてから、自分のも放り脱いだ。後ろ手で施錠。
背負ったままベッドに向かい、そっと下ろせば離れた温もりを掴もうと頼りない両腕が空を切った。


「大丈夫、ここにいるよ」


頭を優しく撫でて‥伸ばされている両腕に応えるべく春歌の隣で横になってから大人しく抱き締められることにする。
本当は抱き締めてあげたいのにね…


「仕方がないから、キス位はさせてよね」


返事はなし。
一息吸ってから唇を合わせて、暫く吐息の共有。呼吸の間隔は寸分狂わず知っているから、苦しくなる前に離して、また塞いで…それを何度も何度も繰り返した。
じわりと熱を帯びて来た頃、項辺りで絡め繋がれていた指先が離れて髪を弄り始める。ゆっくり、唇を離せば切なそうな春歌の表情。起こしてごめんと静かに言えば、言葉なしに首を左右に振った。



「酔いは覚めた?」

「お陰様で‥」

「そう、ならよかっ―‥ん、」

「……、っ」

「仕返しとか、そういうこと?」

「お返し、です」

「なら、お返しのお返しってあり‥だよね?」


半ば掻き抱いて呼吸を根刮ぎ奪う様なキス。抱き寄せられて唇の形が変わる位、粘膜と粘膜とが混ざる、気持ちのいいキス。
これを知ったのは、ごくごく最近。


「っは、はぁ‥んッ//」

「いい加減、慣れてよ…」

「む、りです‥」

「じゃあ慣れるまでする、」

「待っ…」

「待てない、」


ぴしゃりと言われて息を飲んだ。反論さえも許してくれない強引さにドキリと胸が軋んで、心臓を鷲掴みにされる。少し、動揺。けれどもそれですら暫く経つと身を震わせるだけの要因へと成り代わる。
リップノイズを残して唇を離されるが名残惜しくて仕方がなくて、春歌は目を閉じて唇を差し出した。



「ごめん、やっぱり」

「…はい、」

「いい子だから‥早く寝て欲しいかも」

「私‥藍くんより年上です、子供扱いしないでください」

「してないって、」

「し、してます。早く寝なさい‥とか」

「うん、そう言った」

「だから、ですね‥」

「こう見えても、ちゃんと恋人扱いしてるんだけどな」

「でも‥」

「ここまで言っても、退かないの?」



呆れ口調で溜め息を一つ、吐き終わるのと同時に彼女へと覆い被さる。それから息が出来ない位のキス。優しくない、いつも穏やかで、クールなのに…それを真っ逆さまにした様な。


「めちゃくちゃに、しちゃうかもよ?」

「っな、」

「ロボットの僕に、性欲なんてない…そう思って油断してるでしょ」

「そんなことは」

「ある、」

「そんな、こと‥」

「酷くされたくなかったら、今日は退いて欲しいな…」


触れるだけのキス。響くリップノイズ。
子ども扱いしてたら、こんなキスしないでしょ?…至近距離でそう囁けば可哀想な位に顔を真っ赤にした春歌。


「大丈夫、」

「え…?」

「そう遠くない未来、身体が融ける位に愛してあげるから‥」

「ぁ‥ぇ、あの、それって」

「言葉の意味そのままだよ、だから」


お願いだから退いて…?
若干追い詰められた様な口調、綺麗な苦笑い。胸が、キュッとして苦しくなって仕方がなくて…春歌はただ、静かに首を縦に振ることしか出来なかった。




fine.
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