弐の書院
□霜月
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霜月 三十日 申の刻
天気は、快晴。
昨日まで風が冷たかったのだが、何だか今日は暖かいようだ。
空は一つの汚れなく、清く澄んでいるというのに、俺の心はまるで、鉛の如く重い、薄汚れた雲がかかっている風だ。
そのくせ、心はどこかぽっかり穴が空いてしまったかの如くもの悲しさを覚える。
俺は何かしてあげられたかな。
前の事を思い出し、もう闇が広がり出している空を月明かりと、僅な燈だけが照らして、俺はただ吐いた息の白さに余計に寒さを感じる。
こんなに寒くて暗い冬の時だ。恐れられ、決して何事にも怯まぬ狂犬にだって、切ない思いやら、不安やら、心ってもんがあるもんだ。
嗚呼、冬って、人肌恋しい季節だ。
訳もなく彼奴に会いたいと思うのだから。
満たされたいと。
まったく、俺らしくもない。
冬って、不安になる。
家族と過ごしたいなんて、これもまた、俺らしくない発言だ。
だが、あの温かさときたら、何にでも出せるものではない。
きっと、特別な存在なのだろう。
でも、何か足りない。まだ穴は埋まらない。
この澄んだ冬空の如く、心は筒抜で、乾いた冷たい風をよく通しやがる。
そのたび、淵はキリキリ痛み、中で悲鳴が上がる。
もう一度空を見上げ、白い息を吐く。
何が足りないって?そんなん決まっているさ。
本当は、俺の方が先かと思ってた。
なぁ、近い人ともう何も出来なくなるのって、こんなに辛いもんなんだな。
見ているか?聞こえているか?
戦に行って、さっさと散ってしまうのが、良かった。でも、なかなかそうは行かないみたいだ。
他から見りゃ、生き急いでいるように見えるかもな、だから、あの人はそうならないよう止めるんだ。俺が死に急ぐ事のないよう。
なるべく、ゆっくり時が経つようにと。
失ってから気付くものって結構多い。
今だから、言えること。
俺、ずっと俺は早死にするんじゃないかって思ってた。そしてそれでも良いと思ってた。駄目だよね。命無駄にしてるだけだ。
命を懸ける程の大勝負。欲しいモノは?義を持ち忠誠を尽くせる方。
それがしたかったのかな。
思い詰める俺に一つの文が。
『お前は大丈夫だよ〜ん』
俺は思わず、笑みが溢れた。
さぁ、帰ろう家族のもとへ。もう飯だ。
いつか還るその日まで、待っていてくれよな。
届いていますか?僕の思い。